Posted in 2002


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Posted in 2002


観光案内つれづれ




先日ある外国人の団体さんのお供をしてミニ京都観光のお付き合いをさせてもらった。ちゃんとしたバスガイドさんがつくのでガイドさんの説明をかいつまんで通訳してください、とのことだった。うだるような夏の暑さだったが、京都の観光というのも久しぶりだし、何かと勉強させてもらえるだろうということで心うきうきと出かけたわけである。

さて、いよいよバスガイドさんがおもむろに説明をし始め、こちらもぼそぼそ通訳を始めたが、やはりそこは普段あまりやらない観光通訳である、さすがにプロで通訳ガイドなどをやっていらっしゃる方はよほどすごいんだろうなとつくづく感じた。まず、のっけの「京都は冬は寒く、夏は暑いと言われます。」という何でもない文章だが、何を思ったか、それとも勢いがつきすぎたのか、"Kyoto is hottest in summer and coldest in winter in Japan" (「京都は日本っで夏は最も暑く、冬は最も寒い」)などとやってしまい、言ったあとしばらくしてから気がついた。あ〜、わたしってバカ。文章自体がまとまりがないのもさることながら、これじゃ日本でいちばん暑くて寒いようなことにもなってしまう… まさか、いくら京都でも暑さで沖縄に勝てるだろうか?寒さで青森や北海道に勝てるわけがないじゃないか!あ〜大うそつき!と自分で自分を責めながら、この人たちが国に帰って「京都は日本でいちばん暑くて寒いところなのよ」などと誰かに話したりしたらどうしよう?もしその相手が日本のことをあまり知らない人だったら間違った知識を覚えてしまうことになるし、日本のことをよく知っている人であれば「オマエ、何言ってんだ?北海道のほうが寒いに決まってるじゃねーか」などと笑われるようなことになっても申し訳ないし… せめて"Kyoto is famous for its extremely hot and cold climate." (「京都は夏の暑さと冬の寒さが厳しいことで知られています」)ぐらいのことが言えなかったのかなあ… などとあれこれ気をもんでみたが、後の祭りである。せめてもの救い(?)は、見渡すところ乗客の人たちも暑さで結構疲れていた様子で、「たぶんあまり真剣に聞いてないやろ」ということでいちおう自分自身で勝手に納得した。



通訳などをしていていつも経験するのがこの「後の祭り」である。こう言えばよかったのに、もっと別の表現ができたのにという後悔とフラストレーションである。持てる知識や英語の表現力、語彙力などを総動員して一瞬のうちにその場で表現を決めなければならない、まさに「瞬間芸」のような通訳。とにかく何か言葉を発しなければならない。なにしろ通訳を待っている大勢の視線がすべて自分に集中するのだ。それはそれで目立つことが好きな人には「あ、注目されてる!」という充実感もあるのだろうが、相手の顔を見てしゃべっているうちに、ぽろっとそれまで覚えていた単語を忘れてしまったりすることも多い。相手の顔の表情とかに集中力をとられてしまうのかもしれない。ともあれ、その一瞬のうちに適切な言いまわしや語彙を脳や意識のどこかから即座に呼び起こし、表現していくためには常日頃の努力と鍛錬が欠かせない。それもどんな内容のことが出てくるかわからないので幅広く勉強しておく必要がある。また、会社関連の会議などで参加者の意見を片っ端から訳していくというようなことを数時間続けると、放心状態というか、意識や魂の抜け殻状態というか、自分の精神的存在に対する「危機」のようなものを感じたりする。しろうとで適当にやっていてもこれだから、プロの同時通訳の人たちが30分くらいで交代しながら通訳にあたるというのも十分理解できる。とにかく大変な仕事だ。

話は戻って京都観光である。大ボラを吹いたとはいえ、気を取りなおして下手な通訳を続けていたが、これまた「しまった!」と思ったのが、市内観光では定番と言っていいほどの「京都の通り」の説明である。「京都の街は碁盤目状になっており云々…」というバスガイドさんのなめらかな説明が始まると一瞬にして汗が吹き出た。「上から一条、二条、三条、と数字がつけられており、横には〇〇、△△といった名前がつけられた通りがつき抜けるように走っており、ちょうど碁盤目のような形になっております。これは平安時代に唐の都の…」おいおい、ちょっと待て!と思わず心のなかで叫ぶ。そんないきなり「碁盤目」と言われても… ともうすっかり「ごばんめ??」で固まってしまった自分。そうこうしているうちに、二条城や徳川家康が出てくるので時間も足りなくなって結局割愛してしまったが、なんとも心に残ってしまったこの「碁盤目」。例のごとく後で "a chessboard-like (or checkerboard-like) city design with vertically-running north-to-south roads and horizontally-running east-to-west streets. The vertical roads are assigned by number while the horizontal ones are specially named." (「チェス盤のような(チェッカー盤のような)造りで縦方向の南北に走る道路と横方向東西に走る通りで構成されており、縦方向の道路は番号で呼ばれ、横方向の通りには固有の名前が付けられています」)といったところかな、などとため息混じりに考えてみた。やはり前もっての準備が必要なのは言うまでもない。

ところで今回つくづく思ったのが、ガイドさんの説明によく出てくる豊臣秀吉や徳川家康。そして平安時代や江戸時代。これらをどう通訳のなかで処理していくか、である。だいたい海外から来た人の何人が Hideyoshi Toyotomi とか Ieyasu Tokugawa などと言っただけでピンと来るのだろうか?また The temple was built in Edo Period. (「その寺は江戸時代に建てられました」)などと言っても、それっていつ頃?という疑問が起きるに違いない。もちろん適当に聞いている人もいるかもしれないが、まじめに聞こうと思っている人には不親切な説明になる。日本人でさえたとえば奈良、平安時代が西暦何年から何年までと正確に言える人は少ないはずだ。その場で日本語の説明を英語に通訳するといった場合はどうしても時間的な制限があって、なかなか説明を付け加える余裕がなかったりする。しかしせめて、大まかな特長だけは付加していくような工夫と準備が必要なのではないか。 Hideyoshi Toyotomi, one of the greatest lords of warriors in 17th century (「17世紀の有力武士の一人」や in Edo Period, from 1603 to 1867 (「江戸時代、つまり1603年から1867年まで」)といった具合に何か形容する短い言葉を付け加えてみようかと思う。