欽定訳聖書

現在地→ | 英語雑貨屋トップ | 英語用語集 | 英語独学室 | 英語資料室/英語の歴史―欽定訳聖書 | 英語なんてタコ |

欽定訳聖書  Authorized Version of the Bible (1604−1611)
James I of England (1566−1625)
 (C) Eigo-Zakkaya
スチュワート王朝 (the House of Stuart) (1603−40)が始まるとジェームズ1世は聖書の翻訳という一大文化事業に乗り出しました。1604年から7年かけて1611年に完成した『欽定訳聖書』 (Authorized Version) は、華麗な文体、豊かな表現が特長で、また英語の美しさでは散文中の傑作といわれ、後で紹介する数多くの「決まり文句」を残しています。

もちろん、聖書が翻訳されたのはこれが始めてではありません。10世紀に出された『リンディスファン福音書』、中英語期の『ウィクリフ聖書』 (Wyclif's Bible) (1384)などがあります。この欽定訳聖書の編纂方針は、新しい訳を試みるというのではなく、従来の英訳をさらに改善するということに力が注がれました。

ジェームズ1世および『欽定訳聖書』についてもっと知りたい方は以下のサイトにアクセスしてください(ただし、英語です)。
http://www.jesus-is-lord.com/kinginde.htm
http://en.wikipedia.org/wiki/King_James_Bible


以下、欽定訳聖書にみられる英語表現を見てみましょう。現代でも慣用句として伝えられ、広く引用されているものがほとんどです。

the apple of his eye 目に入れても痛くないほど可愛い
my brother's keeper 自分の知ったことではない
an eye for an eye 目には目を:された通りに仕返す
the root of the matter 事の真相を突き止める
the salt of the earth 地の塩:模範となる人格者(たち)
whited sepulchre 白く塗った墓:偽善者
the signs of the times 時代の動向、時勢
rule with a rod of iron 鉄の杖:圧政
the skin of my teeth 命からがら、やっとのことで
eat sour grapes すっぱいぶどう:負け惜しみ
cast pearls before swine 豚に真珠:ネコに小判
in sheep's clothing 羊の皮をかぶった(狼)
filthy lucre 不正な手段で得た悪銭
new wine into old bottles 古いしくみに新しいものを入れる
to kick against the pricks 自分が傷つくだけの無益な反抗をする
go from strength to strength そのたびにますます強くなる
heap coals of fire upon his head 悪の報いに善を施す
if the blind lead the blind 盲人を手引きする盲人:導く能力がないのに導くこと
in the twinkling of an eye またたく間に


欽定訳聖書英語の特徴

シェークスピアの語彙数が3万語以上もあるのに対して、欽定訳聖書のほうはわずか8千語しかありません。また用語や文法、文体などすべてにおいて古い言葉や様式が使われています。中英語期には語尾変化の簡略化や語順の固定化などの大きな変化を経験しましたが、近代初期の頃は以前の名残りを残しながら徐々に変化していく過渡期にあったと言えます。シェークスピアのようなアヴァンギャルドな様式とは異なり、聖書にふさわしい確実で着実な表現がなされ、それがかえってこの頃の一般的な英語の特徴を伝えているのかもしれません。

以下「時代の特徴」と思われる点を挙げてみましょう。

●不規則な過去・過去分詞活用が古い形で残っている。
Old FormPresent Form
digged--> dug
gat, gotten--> got
bare--> bore
spake--> spoke
forgat--> forgot
strake--> struck
holpen--> helped

●古い語順が使われている。
例)follow thou me, speak ye unto, things eternal

●疑問文、否定文に出てくる do, don't が無い。
例)they knew him not --> they did not know him.
一方シェークスピアの英語では do を含んだ言い方と含まない古い表現の両方が見られます。do を含む表現は1700年ごろには一般的になります。

●三人称単数現在形の動詞活用がすべて -eth 
もともと北部方言である -s の語尾が16世紀には南部にも伝播。シェークスピアではニュアンスの違いを持たせながら両方が使用されています。

●二人称代名詞用法の特徴
この時代には二人称代名詞の変化がありましたが、変化以前の規則を採用しています。
ひとつには ye, you です。前者は「主格」であり、後者は前置詞を伴う「目的格」という区別がもともとありました。このルールも変わりつつあったのですが、聖書ではそれが踏襲されています。
例)Ye cannot serue (=serve) God and Mammon. Therefore I say vnto (=unto) you.
一般的には、16世紀後半におおむね ye  you になり、17世紀後半には ye は姿を消してしまいます。

二つめには thou  you の使い分けです。もともと前者は二人称単数を指し、後者が複数という区別があったのですが、この時期には変化が起こりました。前者は親しい間がらの者に使用されるようになり、対して後者は丁寧で正式な用法となったのです。しかし、thou も17世紀にはあまり使用されなくなり、Quaker 教徒のような、ある地域の方言や宗教的な表現に使われるのみとなりました。

●所有格 its の変わりに his を使用。
例)if the salt has lost his savour, wherewith shall it be salted?
16世紀後半には its の使用は見られますが、広く一般に使われるのは100年後でした。ちなみに "it's" という具合にアポストロフィをつけるべきか否かということで18世紀の後半まで議論が続いていたようです。

●助動詞 shall を全人称に対して使用。
will の使用は全くありませんでした。一方シェークスピアではくだけた用例として will を使っています。

●形容詞の最上級の特徴
the most straitest sect, the most Highest などのように二重に表現されています。

●前置詞の使い方
現在とは違った使われ方をしています。左が欽定訳聖書の表現です。
例)tempted of  Satan --> tempted by  Satan(悪魔にそそのかされて)
   to you-ward --> towards  you