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日本人の「聴き取り」はトップダウン?

「うちの会社は社長がワンマンですべてトップダウンで事を決定してしまう」とか逆に「うちの社長はお飾りみたいなもんでほとんど会社のことはボトムアップで決められます」という会社もあるでしょう。上から下へのトップダウン、下から上へのボトムアップ、まあ、どちらがいいのか一言では決められませんね。両方バランスがとれていることがいちばん良い状態なのです。

なんだか「経営論」みたいな話になってしまいましたが、実は日本人のリスニングの傾向はどうもトップダウンではないか、ということなのです。え?社長が聴いて答えを出してくれるの?もちろん、そういうことではありません。ここでいう、トップとは脳のこと、ボトムとは、聴覚の抹消神経のことです。ある音に対して、いままでの経験や脈絡から「これは rice であるべきだ」と判断するのがトップダウン、それに対して、耳から入ってきた音を鼓膜や内耳で信号に変換し、脳へと伝え、「これはこういう音だから、この単語は rice だ」と最終的に決定するのがボトムアップです。

だからどう違うんだ?ということになりますが、つまり、聞こえたままの音をそのまま受けとめ、処理しようとするのがボトムアップで、聞こえたままの音ではなく、脈絡や経験、常識などから、こういうふうに聞こえるはずだというところから結論を出すのがトップダウンというわけです。たとえば、「そら耳」とでもいいましょうか、日本語でもいいんですが、「ウチの会社は"ライフクリエーション"という事業を始めた」などと言いたいときに、自分の言い方が不明瞭で聞こえにくかったのか、相手が「え?ダイフクリエちゃん?」(たぶん相手の発想は「大福」と「リエちゃん」か?)などと聞き返してくる場合があります。相手も確認するつもりで「ダイフクリエちゃん?」などとと訊いてくるのですが、脈絡や常識から考えるとそんなことを言うわけがありません。一体、どんな事業やねん?ということになりますね(和菓子の会社というのなら有り得る名前かもしれませんが)。こちらとすれば、なぜそんな脈絡のないことが急に出てくるの?と思ってしまうわけですが、そういうタイプの人っていますね。聞こえたままを口に出す、というタイプ。かと思えば、こんなふうに聞こえたような気がするけど、まさかこんな突拍子もないことをここで言うわけがない、と思って口に出さないタイプ。前者のタイプがボトムアップで、後者はトップダウンで音を処理する傾向が強いと言えるかもしれません。

回りくどい話になったかもしれませんが、要は日本人は英語の音を聴く際に、音そのものを聴きわけるというよりは、脈絡で聴いているのではないかということです。自分はリスニングが苦手だという意識があれば余計にその傾向は強まります。外国人相手の英語での会議などになると、そりゃもう、必死です。なんとか相手の言っていることを理解しようと、アタマもフル回転です。自分にとって不明瞭な音を脈絡で補って理解するというのは、高度な脳の働きですが、これをやっているがために、英語の子音そのものを聞き分ける能力が身につかないというわけです。日本人はとくに r  l の聞き分けが苦手だと言われます。確かに、夕食に何を食べるかというようなシチュエーションのときには、 rice しかあり得ないし、 lice (シラミ)という単語が出てくるはずはない、という常識(つまり脳)が働くわけです。よほどゲテモノ食いの人でない限り、「ライス」と聞こえた音はすべて rice と解釈して問題はないのですが、なかには r  l で始まる音のどちらでも成り立つような場合もあり、困るわけです。

日本人に限らず、成長の段階で、誰しも母語の発音に順応して言葉を習得するのですが、もともと日本語には r  l の区別がないわけですから、母語にない音を聞き分けること自体が難しいことなんですね。日本人が今後国際語になるであろう英語の聴き取りをマスターするためには、いっそのこと日本語でも r  l と別々の発音を取りいれてしまうか、小中学校で徹底的にこのふたつの音の聞き取りをトレーニングするのがいちばん良いのでしょうが、こういうことは一市民が決めれるような事ではありませんから、自分で訓練するしかないわけです。

一方で、日本でもこういった研究が進められており、最近ではずいぶん注目されるようになってきています。よくメルマガなどで「CD-ROMを聴くだけで、英語耳」などというキャッチフレーズで教材が紹介されていますね。ただし「英語耳」になったからといって英語が上達するわけではないのですが、日本人にとって本質的に聴き取りにくい音をどう克服するかという意味では活用するのも手だと思います。

ちなみに専門家の先生方がおっしゃるには、 r  l の聞き分けの訓練には、数人のネイティブ(一人ではダメだそうです)に r  l を含んだ単語をテープに録音してもらって、それを繰り返し聞くことで効果があがるのだそうです。ここで大切なのは、「文章」でなくて「単語」でなければならないということです。文章だと、またかしこいアタマがでしゃばってしまいますから。でも、数人のネイティブについてはどう調達しようか、というのが次の課題ですね。まさか電車に乗っている外国人に片っ端から頼んでまわるわけにもいかないし。そりゃそうですね。相手も迷惑でしょうし、ここは、やはり市販のものがいいでしょう。このコーナーを書くのに、大いに参考にさせていただいた「英語リスニング科学的上達法」(ART人間情報通信研究所)というブルーバックスから出版されている本があります。この本の付録に CD-ROM がついていますので、よかったら試してみてください。正解率○%なんて出てきますから、最初はガックリしたりしますが。

(参考:ブルーバックス『英語リスニング科学的上達法』、講談社『音のなんでも小辞典』日本音響学会編)


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