ウェールズってイギリスの県?イギリス英語と同じでしょ?――など当然湧いてくる疑問ですが、英語が使われるようになったのはつい18世紀ごろから。そんなウェールズで話される英語の特徴を探ってみましょう。
Last update April 20, 2015




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ウェールズ英語

スコットランドやアイルランドと並んで、ケルト民族のルーツを持つ国、ウェールズ。しかし、その正確な地理的位置は?と聞かれると、(特に興味がない人にとっては)「どこだっけ?」など、存在感がいまひとつ薄いのも特徴です。ウェールズは、イングランドの西側にありグレート・ブリテン島の一部を構成しています。また、スコットランドや北アイルランドと同様に「グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国」(the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)の一員でもあります。距離的に近いことからイングランドとは政治的なつながりが密接ですが、言語的には、英語ではなくケルト語の一派であるウェールズ語が長年話されてきました。

ところで、イギリス王室には、その後継者を表す Prince of Wales という称号があります。現在ではチャールズ王子がそうですね。これは、ウェールズの一部がかって公国(principality)として存在していたことに由来していますが、その称号について、かって併合されたウェールズの人々がその統治者として、「ウェールズ生まれで英語を話さない王子」を要求したという伝説があります。

いかにケルト人のルーツに誇りを持っているかが想像できる逸話だと言えます。事実、ウェールズには、ブリテン島を侵略してきたローマ人やゲルマン人を相手に果敢に戦ってきたという歴史もあり、16世紀には、イングランドによる併合にともない、英語を公用語とする法令が出されましたが、実際に英語が話されるようになったのは18世紀になってからのことです。その後、19世紀の産業革命をきっかけにイングランドからの移民が急増するとともに英語がますます浸透し、20世紀に入るとウェールズ語に取って代わるようになりました。しかし、最近では、そのような傾向が見なおされ、ウェールズ語保護政策が打ち出された結果、ウェールズ語を話す人口も増えているようです。

スコットランドやアイルランドでもそうですが、そんなケルト魂がしっかり生きているウェールズ。そこで話される英語についても、ケルト語の一種であるウェールズ語の影響を受けないはずはありません。まず顕著なのは、歌うような独特のイントネーションです。文字通り singsong accent と呼ばれますが、母音が長く発音され、同一の単語のなかで音が高くなったり低くなったりと音の高低が交互に繰り返される抑揚を言います。たとえば、「ジョン、君は何をしているの?」という文章も ♪John, what are you doing? となんだか楽しげで、図示してみると下記のようになります。



その他、文法や言い回しなど、スコットランド英語やアイルランド英語同様、「ちょっとその文法おかしくない?」といった例や語彙にもウェールズ語の影響がみられます。ただし、ウェールズでは標準英語というものがなく地域によるバラツキがかなりみられるため、上のような「シングソング」イントネーションがすべての地域で起こるわけではありません。イギリスの標準英語に近い地域もあり、国境を隔てて隣接するイングランドのそれぞれの地域の影響を受ける地域もあります。

以下、ウェールズ英語の特徴を詳しくみていくことにしましょう。




ウェールズ英語の発音

ウェールズ英語では、イギリスやオーストラリア、ニュージーランドの英語と同じように、音節語尾の母音の後の「r」は発音しないのが基本ですが、ウェールズ語の影響が強い地域は例外です。また、/t/ や /d/ の破裂音が摩擦音のように発音されるなど、独特の特徴があります。詳しくは、「英語の発音」コーナーのウェールズ英語の発音をご覧ください。


ウェールズ英語の表現

文章の作り方にもウェールズ英語ならではの特徴があります。スコットランド英語やアイルランド英語の例にももれず、学校で学んだ英文法が当てはまらない場合があるので注意しましょう。以下、ウェールズ英語のユニークな表現についてまとめてみました。

 「今やるよ」は「そのうちやる」の意味?
日本でもいますね、仕事などを頼んで「いつ頃できます?」と聞くと、「今やります」と言いながらなかなか上がってこないので、「まだですか?」と催促すると「今やりますから」と同じ答えが戻ってくる。何度催促しても「今やります」というわけで、一体この人の「今」は「いつ」なのかと思ったりしますが、ウェールズ英語の now も「今すぐ」ではなく「できるだけ早く」程度の意味。つまり、相手が "I'll do it now" と言っても今すぐやってくれるわけではなく、ましてや "I'll do it in a while, now" などと答えられた場合は、当分やってもらえないものと覚悟したほうがよさそうです。

 「次の機会」は「再び」やってくる?
もうひとつ、ちょっとニュアンスの違う単語がこれ again。たとえば、誰かに本を借りていたので返そうと思っていたら、あいにく持ってくるのを忘れたというのはよくある話ですね。「ごめん、持ってくるの忘れたよ」と言うと、"Don't worry. I'll have it from you again" などと答えられたりするようです。で、気になるのがここでの「again」。「次の機会に」というのならわかるのですが、again って?まだ返していないのに「再び」とは?――と悩んだりするものですが、ここは単に next time の意味です。

 付加疑問文もすべて isn't it? でOK!
「〜ですね」という意味を付け加えて作る付加疑問文。学校で習ったのは、その文章の主語と動詞に沿って、don't you?、doesn't he?、あるいは aren't we? など付加するパーツも異なり、しかも、肯定文なら否定形、否定文なら do we?、is it? などと肯定形にしなければならないというルール。めんどうなので、つい ..., right? で代用してしまいますが、ウェールズ英語では、"Many people love dogs, isn't it?" などとすべて isn't it? で統一できる万能型付加疑問文というわけです。もっとも、最近では英語にうるさいイギリスでも、カリブあたりから借りてきた innit? というすべてに使える便利な付加疑問文が若い世代の間で流行しているのだとか。

 ウェールズ人は倒置法が好き?
「疲れたよ、私は」とか「きれいだね、その花」など日本語でも話し言葉ではよく使われる倒置法。一般的な英語では "I am tired" などとその部分を強く発音することで強調しまが、ウェールズ英語では、文字通りこの常識をくつがえし "Tired, I am" や "Beautiful, the flower is" といった詩的な表現がよくみられます。これは、動詞が主語の後ではなく主語の前に来るというウェールズ語の語順に影響を受けています。

 その他、いろんなクセ
その他、ウェールズ語の影響で、"Saw him going" などと文章の主語を省いたり、"How strange he is!" といった感嘆文で how の代わりに there を使う、あるいは、"Look you, the sheep are loose" など、文章の最初に look you や mind you を持ってくるといった独特の特徴がみられます。


ウェールズ英語の語彙

ウェールズ英語の語彙には、ウェールズ語から借用したもの、ウェールズ語を語源として英語になり一般的に使われている単語もあります。ちなみに、南極などに住んでいる可愛い動物 penguin ですが、その語源はウェールズ語だという説があります。また、ウェールズ語源の単語については、同じくケルト語の一派であるアイルランド語やスコットランドのゲール語にも同様の単語が存在するものもあります。

以下、ウェールズ英語の語彙をいくつかご紹介しましょう。

単語 意味 備考
bach 小さい、少ない ウェールズ語からの借用
bard 吟遊詩人 もともとはケルト族の楽人の意味で、ウェールズ語の bardd、あるいはアイルランド語・スコットランドゲール語の bard が語源
cawl ウェールズのスープ ウェールズの伝統的なスープまたはシチューを指す。ウェールズ語からの借用
coracle コラクル(かご舟) アイルランドやウェールズの川・湖で用いる枝編み細工の枠に皮などを張った一人乗りの小船。ウェールズ語の cwrwgl、アイルランド語・スコットランドゲール語の currach が語源
corgi 犬の品種名 ウェルシュ・コーギー。ウェールズ語の cor 「小さい」+ gi 「犬」
cwm ウェールズ語から古英語には cumb として借入
crag 険しい岩山 ウェールズ語の craig、スコットランドゲール語の creagh が語源
cromlech クロムレック ドルメン、塚を取り巻く巨大な環状列石。ウェールズ語の crom 「アーチ状の」+ llech 「石」から
eisteddfod ウェールズの祭の名前 毎年行われる詩人や音楽家などが腕を競う祭。ウェールズ語からの借用
flummery フラメリー ミルク、卵、小麦粉で作るやわらかいデザートの一種。ウェールズ語の llymru 「酸味のあるオートミールで作ったやわらかいゼリー」から
nain 祖母 ウェールズ語からの借用
penguin ペンギン ウェールズ語の pen gwyn (pen 「頭」 + gwyn 「白い」)が語源だとする説があり、もともとは絶滅種である great auk という飛べない鳥を指した
taid 祖父 ウェールズ語からの借用
wrasse ベラ(魚の一種) 主に熱帯地域の海に生息する色鮮やかな魚の名前。ウェールズ語の gwrach 「老婆、鬼婆」 が語源


参考

以上、ウェールズ英語についてご紹介しましたが、ここはひとつウェールズ人っぽくしゃべってみたいという方は、下記のサイトをチェックしてみてください。
http://www.youtube.com/watch?v=W2PHch4IPPQ

発音についての詳しい説明は、「英語の発音」コーナーのウェールズ英語の発音をご覧ください。

ウェールズ英語
  http://www.bl.uk/learning/langlit/sounds/find-out-more/wales/
  http://blog.oxforddictionaries.com/2012/03/the-beauty-of-welsh-english/



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