Last update May 29, 2021

こんなに違う古英語の文法 (4)

動詞の語尾まで変化する?

三人称単数の「s」や過去形、過去分詞形もあって英語の動詞ってややこしい!――なんて言ってられません。古英語の動詞の活用はもっと複雑です。

むしろ、フランス語やスペイン語などのヨーロッパ言語の動詞の活用ではあたり前のことで、英語の動詞の活用がシンプルすぎると言わなければなりません。

つまり、どういうことかと言うと、三単現の「s」どころか、「私、あなた、彼、彼ら…」といった人称代名詞に合わせてそれぞれ変化するのです。しかも、時制も「現在と過去」だけではありません。「直接法」、「接続法」、「命令法」といった「法」(mood) も含めて、それぞれが人称代名詞ごとに変化します。図にしてみると、次のようになります。



たとえば、「私」だけでも、「不定詞~過去分詞」までの動詞の変化があるわけで、単純計算すると全部で「8×4=24」種類の動詞の活用があることになりますが、同じ活用形が多いので覚えるのはもっと少なくなります。ちなみに、ヨーロッパ言語などでは、「時制」に「未来」もあり、「複数人称」の部分は「私たち、あなたたち、彼ら」などに分割されますから、もっと活用の数は多くなります。

では、具体的な例をあげてみましょう。古英語の動詞活用のパターンには大きく2種類あり、「強い動詞」(strong verb)、「弱い動詞」(weak verb) と呼ばれていますが、パワーが強い弱いという意味ではなく、変化の度合いが強いか弱いということで、ざっくり「不規則動詞」、「規則動詞」と考えていただけばいいでしょう。ここでは、「強い動詞」である stelan (「盗む」)と「弱い動詞」である sƿebban (「眠らせる」)という単語を活用させてみると以下のようになります。

時制・法 人称代名詞 stelan sƿebban
不定詞 stelan sƿebban
tō stelanne tō sƿebbanne
直接法現在 stele sƿebbe
あなた stilst sƿefest
彼/彼女/それ stilð sƿefeþ
複数人称 stelaþ sƿebbaþ
直接法過去 stæl sƿefede
あなた stǣle sƿefedest
彼/彼女/それ stæl sƿefede
複数人称 stǣlon sƿefedon
接続法現在 stele swebbe
あなた stele swebbe
彼/彼女/それ stele swebbe
複数人称 stelen sƿebben
接続法過去 stǣle sƿefede
あなた stǣle sƿefede
彼/彼女/それ stǣle sƿefede
複数人称 stǣlen sƿefeden
命令法 stel sƿefe
あなた stel sƿefe
彼/彼女/それ stel sƿefe
複数人称 stelaþ sƿebbaþ
現在分詞 stelende sƿefende
過去分詞 (ge)stolen sƿefed


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