Last update August 25, 2019

英語の独学――管理人の場合 (3)







「ラジオ英会話」でリスニングを鍛える

こうして、物置き部屋の古いラジオ(右の画像はイメージ)で聞くことになった「ラジオ英会話」。スイッチを入れ、周波数の「つまみ」を回すと「ピー、ガー」という雑音に混ざって「…ハムニダ」とか「…イッスムニダ」など、さすがに九州だけあって朝鮮半島のラジオもよく入ります。やっとこさ NHK に合わせると、「♪タラ~ンタッタッタラッタ…」といった軽快な音楽で始まる「ラジオ英会話」。音楽に合わせて講師の先生の "Hello, everyone!" という声。「おお、これか。頑張るぞ!」と心機一転、学校の英語を離れた「本格的な英語の学習」が始まったのでした。

レッスン1はよく覚えていませんが、やはり「あいさつ」表現のような内容だったと思います。まず最初に全体のスキット(今では vignette:ビネットということもある)を聞いてから、日本人講師の解説があり、それからアメリカ人ゲストの後について文章を発音するのですが、文章も短く、それほどむずかしいとは感じませんでした。ところが、次の課あたりから急に難易度が上がってきました。それほど長い文章ではないのですが、耳で聞いても聞き取れないのはもちろん、テキストを見ながらでも、ゲストが読むようにすらすらと発音できません。ゲストの真似ができない、しようにも口がついていかないのです。

そのときの講師の先生の解説は、私にとってまさに「画期的で衝撃的な啓蒙」でした。それは英語には「強」と「弱」のリズムがあること。「強」の部分はゆったりと発音するのに対して、「弱」の部分はそれよりも速く発音しなければならないということです。先生の解説の詳細は覚えていませんので、私なりに「こうだろう」と解釈した内容を示すと、以下のようになります。


図中の赤丸は、音の強弱を表わし、大きいものほど音が強くゆっくり発音すると意味です。厳密に音節などを示しているのではなく、あくまでも強弱のイメージととらえてください。「私は学校に○○」という意味の単文ですが、通常、「私」(I) と「学校」(school) の単語が大事な部分になり、明瞭に発音する必要がありますので、いちばん強くゆっくり読むということが言えます。そして、縦の点線で囲んだ部分ですが、それぞれ go to'll go to'm going to といった言い換えが可能です。

この3つの言い換えのうち、最初の go to は単語が2つですが、 'll go to'm going to になると単語が3つになり長くなってきます。日本語式の発音であれば、単語が長くなれば長い時間をかけて発音すればいいのですが、英語では、左右の点線で囲んだ部分は1つのユニットとして、同じタイミング(時間)で読みきってしまうのです。時間が同じであれば、単語が長くなればなるほど「速く弱く」読むことになるのです。これが英語のリズムです。

「時間」といっても、実際に計った時間というのではなく、相対的で心理的な時間ということになります。間に go to'll go to'm going to のどれが来ようと、 I から school までの1つの文章を発音するタイミングはすべて同じということになるのです。ちなみに、日本語では、母音と子音の組み合わせの音で成り立っているため、それぞれの音が同じ長さで発音されます。


読めれば聞き取れる、聞き取れれば読める

英語のリズムを習得するには幼い頃がいいのですが、何しろ、私が英語を始めたのは中学校に入ってからです。日本語のリズムに慣れきった脳には、この強弱のリズムは未知の世界。こういった弱く速く発音する部分が文章に数箇所出てくると、なかなか処理できないのです。しかし、訓練あるのみ。語学の基本は、ネイティブスピーカー(あるいはそれに近い人)のモノ真似から始まります。というより、それしかありません。

当時は、カセットレコーダーのようなものもなく、ラジオの放送が一発勝負です。必死で聞きました。テキストには抑揚やスピード、リズムなどの記号(自分だけにわかるような)を書き込み、ゲストのネイティブスピーカーとまったく同じように真似できるまで練習です。自転車での通学途中もブツブツと練習を重ね、とうとうネイティブに近い読み方ができるようになったときのうれしさ。手を打って喜びました。そして、中学三年の春に受験した英語検定3級のリスニングは、まさに一字一句聞き取れるまでに上達していたのです。さらに、その秋には2級にチャレンジしましたが、これも無事に合格することができました。

当時は自分でも不思議なくらいでしたが、今にして思えば、「口」を使ってモノ真似をすることで、脳が英語のリズムを受け付けるようになり、ひとつ壁を破ることができたのだと言えるでしょう。「英語耳」といいながら、結局は脳の働きですから、「発音できれば聞き取れる」ということで、「読む」ことと「聞く」ことは密接に関わっているというわけです。

教訓その4
英語には強弱のリズムがあり、強いところはゆっくり発音され、弱いところは速く発音される。これが英語のリズムの基本であり、このリズムがあることで英語らしく聞こえ、このリズムがなければ日本語英語になる。また、この弱く速く発音される箇所が「聞き取れない」箇所でもある。音自体が弱くなるだけでなく、複数の音を途切れなく発音することで、前後の音が合体して1つの音の塊りとして聞えるからである。リスニングとは、この塊りをいかに切り離し、意味ある情報として処理するかの作業に他ならない。このプロセスを処理できるようになるには、複数の音が塊りのように発音される現象に慣れ親しむしかない。その方法として、自分の口を使って、同じように発音できるようになることが最も効果的である。

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