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Last update April 7, 2020

英文コピーライターの実際

ネイティブのコピーライター?


「英文のコピーライター」とは、文字通り「英文のコピーを作成する人」です。ビジネスの世界では、英語を母国語としない人の書いた英文コピーは正式なものとみなされないため、英語を母国語とするコピーライターというのが妥当な定義と言えるでしょう。しかし、厳密に言えば、日本における英文コピー作成には、どうしても日英言語間の橋渡しをする機能が必要になってきます。日本語のコピー作成なら、日本人のコピーライターがオリエンテーション(クライアントからの説明)を受けてそのまま作成すればいいのですが、英文となるとそうはいきません。英語のネイティブライターが直接日本語でオリエンを受けて、そのまま英文コピーを作成するということができればいいのですが、現実的になかなかむずかしいものがあります。

最近では日本語の堪能な英語圏の人も増えてきましたが、それでも、打ち合わせやメールのやりとりでの日本人の曖昧な発言をすべて理解できるほどの日本語スキルを持っている人は非常にまれです。しかも、日本人は物事を明確にせずに内輪のノリで「なーなー」的に進めてしまうことが多いため、日本語スキルがあるだけでは理解不能な場面が多々あります。いちいち「それどういうことですか?」などと聞き返すのも「あうんの呼吸」でわからないのか?ということにもなり、なかなかできる雰囲気ではありません。日本で生まれ育った日本人にとっても簡単ではありません。

それを日本語を母国語としない英語圏の人に求めるのは、ほとんどミッション・インポッシブルですね。もし、仮に、そういう日本人ナイズされた英語圏のネイティブがいたとしても、その人がコピーライターである可能性は限りなくゼロに近いと言えるでしょう。つまり、日本で英文コピーを作成するには、英語のできる日本人との協業がどうしても必要になってくるのです。日本人が日本語のインプットを英語に翻訳してそれを英語圏のネイティブがライティングする、あるいは、日本語を理解できる英語圏のネイティブがライティングしたものを日本人のチェッカーがチェックするといういずれかの方法を取るわけです。よって、日本における「英文のコピーライティング」とは、厳密に言えば、日本人コピー担当と英語圏ネイティブとの共同作業というわけです。

ちなみに、筆者の場合、自分が原文をもとに翻訳をしながら英文コピーの下書きを作成します。そして、それをネイティブのライターにチェックあるいはブラッシュアップしてもらったものをさらにチェック、エディティングするという方法を取っています。ですから、自分自身の職種は翻訳者でもあり、英文コピーライターでもあり、エディターでもあると思っています。一言で説明できる肩書きがないため、翻訳ライターとか、クリエイティブトランスレータなどと呼んだりしていますが、いっしょに仕事をしたことのない人にとっては、どんな言葉を連ねようとたぶん自分のやっていることは理解してもらえないだろうと思っています(こればかりは仕方ありません)。





いきさつ

筆者の場合、大学を卒業してからずっと英文コピー作成もしくは翻訳をベースとする英文ライティングをやってきましたが、ここで、そのいきさつを少しご紹介しましょう。

ある広告制作会社の入社試験でのこと。日本語のコピーライターに混じって試験を受けていたところ、二次試験くらいで「国際部」の空きがあるからこちらを受けないかと誘われ、できれば英語を活かしたかったというのと、こちらのほうが一般のコピーライターで受験するよりはるかに競争率が低いため、「あ、そうですか」という軽いノリで受験、めでたく採用していただきました。

最初は退屈な校正から始まり、そのうちカンタンな商品の総合カタログなどの仕事を担当させてもらえるようになりました。とは言え、文章を書くというよりも、商品の特長の項目を並べる作業がほどんどで、なんだかガッカリしたものですが、この商品の特長並べというのも結構むずかしいのです。総合カタログですから、商品のカテゴリーに従って複数の商品を並べ、その特長項目をアレンジするという作業です。

まず、商品を並べる順番、だいたい、機能の高いモデルから低いものへ(その逆の場合もあります)と並べていきますが、それぞれの商品の特長を把握しなければそれができません。また、同様の機種には同じ特長がありますが、それぞれ異なった特長も持っていたりでなかなかややこしいのです。同じAという特長であっても、ある商品では、これ以外に優れた特長がないためトップに来ますが、別の商品なら他に優れた特長があるので、特長Aは三番目に来るというふうに、矛盾しないように並べなければなりません。もちろん、表現の統一が大事ですので、同じAという特長なら商品CでもDにおいても、同じ表現をしなければなりません。特長のアレンジが終われば、それぞれの商品に、その特長を捉えて「○○を備えた、○○のための○○商品」といったヘッドラインをつけていきます。また、表4(裏ページ)には、それぞれの商品の仕様を表にしてまとめます。

こういったことをすべて踏まえながら、一冊のカタログのテキスト素材を編集・作成するわけです。このようなテキスト素材のことも、この業界では「コピー」と呼びます。だいたい何ページくらいで、どこのページにどんな商品を掲載するという割付けを作るのもコピー担当の仕事です。このページ割付のことを「サムネイル」と言い、英語の thumbnail から来ていますが、本来の意味はいわゆる「親指の爪」。つまり、親指の爪のように小さなスケッチという意味で、全体のページ割付をA4またはB4サイズ1枚ないし2枚程度でまとめます。

日本人でも英文コピーは書ける?

そうこうしながら、2年くらいたつと、本格的な英文のコピーを担当することができるようになります。筆者にとって幸運だったのは、この会社が英文コピー作成において独自のやり方をしていたことです。たいていの制作会社は、英文モノとなると、翻訳会社に依頼し、それをそのまま使うことがほとんどです。従って、英文担当者は、日本語の原稿を翻訳会社に依頼し、上がってきたものをチェックし納品するという、いわば「橋渡し」的な役割のみに専念しますので、ライティング自体を経験することがありません。しかし、ここの会社では、英文コピーはただの翻訳ではダメだという考え方をしていたため、一から社内で作るという方針を持っていました。この方針のおかげで、英文でのライティングというものを学び経験することができたわけです。その後、この会社を辞めて別の会社に入社しましたが、そこでも、英文は翻訳会社へ横流しという方法が取られていました(一から英文コピーとして作り上げるという方法を採用しているところはないようです)。もちろん、それまでの経験を活かしさらにそれを高めるために、その会社においても、まず自分で英文ライティングを起こし、英語圏ネイティブにブラッシュアップしてもらうという方法を踏襲させてもらいました。

さて、英語のライティングですが、日本に生まれ育った日本人がすべて日本語のコピーライターになれるとは限らないように、英語圏に生まれ育ったネイティブというだけでは、英文のコピーライターにはなれません。ネイティブでもそうなのに、ましてや、大学を出たての日本人の英語力くらいではとても英文のライティングなどはできません。日本語でも英語でもそうですが、ライティングというものは、やはり特殊なトレーニングが必要です。学校でやった英作文などでは、せいぜいネイティブライターに日本語の資料の内容をざっと伝えるくらいしかできないのです。熟練レベルの先輩になると、ネイティブのチェックはほとんど細かい冠詞、前置詞レベルだけという人もいましたが、筆者の場合、なにしろ、駆け出しのレベルですから、ネイティブによって容赦なくリライトされてしまいます。自分の作った英文はどこに… といった寂しい状況でした。

しかし、それでも諦めずに努力を重ねていくいうちに、だんだん良いものが書けるようになり、ネイティブからも「よく書けてるよ」と言ってもらえるようになりました。もちろん、ブラッシュアップは必要ですので、自分の書いたものがそのままフリーパスということはありませんが、英語の起承転結の運び方、レトリックの展開など、自分の書いた文章構造や表現アイデアをすべてリライトされるということはなくなってきました。今では、(お世辞半分かもしれませんが)「ネイティブが書いた文章かと思った」などと言ってくれるネイティブライターもいます。振り返れば、この経験によって得たスキルが現在の自分を支えていると思っています。「英文ライティングは英語圏ネイティブしかできない」という風潮がありますが、自分が英文ライティングをやりたいのなら、あえてそこにチャレンジすればいいと思うのです。(もちろん、それをどのように修練し、どのように「売るか」という課題は残ります。)