Last update May 28, 2021

アルファベットはどこから? (2)

フェニキア人のアルファベット

フェニキア文字の祖先は、原シナイ文字 (Proto-Sinaitic script) から発展した原カナン文字 (the Proto-Canaanite script) だとされています。発見されたフェニキア文字の記録のうち、最古のものは紀元前1200年頃のアヒラム王の石棺に刻まれた文字ですが、便宜上、紀元前1050年以降のものをフェニキア文字と呼び、それ以前のものは原カナン文字と呼ぶ習わしになっています。

フェニキア文字の意義や特徴を挙げてみると以下のようになります。

子音のみで構成されるアブジャー(子音のアルファベット)
それぞれの文字がその文字で始まる名前を持ったアクロフォニー (acrophony) である
ヒエログリフや楔形文字とは異なり、1つの文字が1つの音のみを表す文字体系
文字の数も20数文字であり習得がしやすい
そのため一般人にも広まり、文字が特権階級の独占物ではなくなった
表音文字であるため他の言語を筆記することが可能になり、さまざまな言語のアルファベットの元になった

こうして、フェニキア文字は、フェニキア人が海路による交易を行う人々であったこともあり、北アフリカやヨーロッパへ伝わっていきます。アラビア文字やヘブライ文字の元になったアラム文字もフェニキア文字から派生したものと言われています。

ヨーロッパへの伝播

では、このフェニキア文字がいつ、どのようにしてヨーロッパに伝わったのかというと、それは、紀元前8世紀ごろ地中海沿岸で交易を行うフェニキア人によって、まずギリシアに伝わりました。そのころのギリシアでは、ミケーネ文明 (the Mycenaean civilization) から使用されていた線文字 B (Linear B) などの文字が使用されていました。これは5つの母音を含む87の音節文字、100の表意文字からなる文字体系だったようですが、ミケーネ文明が滅び、フェニキア文字が伝わると徐々に姿を消していきました。

こうして、ギリシアに伝わったフェニキア人のアルファベットですが、問題は、子音を表す文字しかなかったという点でした。ギリシア語では、母音は重要な役割を果たすため、母音を表す文字が必要だったのです。そこで、ギリシア人はフェニキア文字のうち、ギリシア語では必要のない音を表す文字を母音用に使うなどの改良を加え、母音文字を含むアルファベットを開発したのです。歴史上初めて母音を含む本格的なアルファベットの誕生です。

最初は地域によっていろんなバリエーションがありましたが、イオニアで使われていた文字が標準となり、紀元前4世紀頃にはギリシアのほとんどの地域でこのアルファベットが使われるようになりました。

その後、植民を行うギリシア人によって、フェニキア文字を元にしたギリシア文字がイタリア半島にも伝わり、ヨーロッパにおけるさまざまな言語のアルファベットを生み出す母体となっていきます。英語に入ってきたラテン語のアルファベットも、そういったアルファベットのひとつにすぎないものでしたが、ローマ帝国の支配とともに、有力な文字体系として各地に広まっていくことになります。


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