Last update May 28, 2021

アルファベットはどこから? (3)

文字の変遷

それでは、実際にフェニキア文字がギリシア語、ラテン語の文字へと取り入れられていくにつれて、その形などがどのように変化していったかを見てみましょう。

上でも述べたとおり、フェニキア文字は、文字自体に名前がつけられたアクロフォニー (acrophony) であったという特徴がありました。アクロフォニーとは「頭音法」あるいは「頭字法」とも訳されますが、つけられた名前の最初の文字がそのアルファベットの文字になっているということで、同時に、その文字が実際の「物」を意味しているわけです。

たとえば、「A」の文字には alf (「雄牛」の意味)という名前が付けられていますが、これはヒエログリフの「雄牛」を表す文字をもとに作られたようです。そう言えば、斜めに突き出ている2本の線が牛の角を連想させます。これを右に90度回転させると「A」になるというわけです(さらに上下逆さまにしてみると牛の顔になりますね)。文字の音を表す表音文字でありながら、表意文字や象形文字の要素を残しているのが興味深い点です。

* 現代のギリシア語のアルファベットにはない文字
フェニキア文字 発音 名前 意味 ギリシア文字 ラテン文字
[ʔ] alf ox 「雄牛」 A A
[b] bet house 「家」 B B
[ɡ] gaml camel 「駱駝(らくだ)」 Γ C, G
[d] delt door 「ドア」 Δ D
[h] he window 「窓」 E E
[w] wau hook 「留め金、フック」 F, Y F, V, Y
[z] zai weapon 「武器」 Z Z
[h] het wall 「壁」 H H
[tʕ] tet wheel 「輪、車輪」 Θ -
[j] yod hand 「手」 I I
[k] kaf palm of a hand 「手のひら」 K K
[l] lamd goad 「(家畜などを追う)突き棒」 Λ L
[m] mem water 「水」 M M
[n] nun serpent, whale 「蛇、(後に)鯨(くじら)」 N N
[s] semka fish 「魚」 Ξ, X X
[ʕ] eyn eye 「目」 O, Ω O
[p] pey mouth 「口」 Π P
[sʕ] sade hunt 「狩猟」 * -
[q] qof needle, head 「針、頭」 * Q
[r] rosh head 「頭」 P R
[ʃ] shin tooth 「歯」 Σ S
[t] tau mark 「印」 T T


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