Posted in 2003


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Posted in 2003


飾り英語いろいろ




英語を使わない人たちのあいだで仕事をしていると、おもしろい発見がある。と言っても英語の上達などには全く関係のない発見である。日本人の国民性だとか、英語を理解しない人たちの考え方、発想など、人間観察の意味でも興味深い。特に、パンフレットやチラシ、ポスター、パッケージデザインなどを手がける業界などでよくあるのが「飾り英語」である。筆者は勝手に「デコレーション・キャッチ」などと呼んでいるが、なぜ「飾り」かというと、それは文字通り「飾り」であり、メッセージ自体はたいした意味をもたないからである。

なかでも「ここに何か英語入れたいんですけど、良いのありませんか?」とか、「こんな英語適当に入れてみたんですけどおかしくないかチェックしてください」いうグラフィックデザイナーからの相談が最も多い。次いで多いのが、「今度お客さんのほうで、こんなプロジェクトをやるらしいんだけど、英語でカッコイイ名前ないっすかね?」とかいうディレクタやプランナーからの案件である。これは20年前から全く変わっていない傾向であり、日本市場全体の標準とも言うべきものだ。

巷にもありとあらゆる看板、ポスターなどがあるが、つい首をかしげたくなるような「飾り英語」もよく見かける。これは、日本に住んでいる外国人(とくに英語圏の)からすると格好の「ひやかし」材料であり、なかにはそういう事例を写真付きで載せ、笑いものにして楽しんでいるサイトもある。とは言え、逆に外国人が使う日本語もヘンだし、結構笑える。メールなどのやりとりにおいても、「おファックスをありがとうございます」とか、ある外国の観光地では、担当のガイドとのトラブルがあったのか、どこかの土産物店の人たちが「ガイドぺてん師、きおつけてください」などといったプラカードを掲げて寄ってきたりする。「ファックス」に「お」はつけないし(同様に、電話も「ご電話」とは言わない)、「ペテン師」などという言葉もいつの時代の言葉じゃ?と思わせるものがあって面白い(ヘンな日本語だがインパクトはある)。

言ってみれば「お互いさま」の現象なのだが、問題は、外国人が日本語を使う場合よりも、日本人が英語を使う場合のほうが圧倒的に多いということだ。これは、英語は国際的な言語だということもあり、日本語よりも使われる頻度が高いということが大きな理由である。英語版として制作する場合は当然、翻訳会社などに依頼した英文を載せるわけであるが、日本国内で使用される日本人向けの制作物に関しても一部に英語を使うという傾向があるわけである。厳密に言えば、ターゲットは日本人であり、英語を使う必然性はどこにもないのである。にもかかわらず、どうして日本人は英語を使いたがるのか?明治時代からの「舶来崇拝」がいまだに根強く残っているのか?といった疑問が湧いてくる。

確かに、そういう依頼には頭を悩ませるものだ。最近、ヘンな英語は笑われるからということで、依頼する方も「日本人にわかるような平易な表現で、しかも英語として正しいもの(笑われないもの)」という条件をつけてくるからだ。しかも、文章は短くしてください。それでもって盛り込みたいニュアンスは山ほどあり、なかには相反する内容のことをうまく5単語以内の盛り込んで欲しいなどという不可能なことを言ってくる。まさに英語は魔法の文字、と思っているのか、英語のわかる人は英語の魔法使い、何でもかなえてくれる!と思っているのか、大きな勘違いというものもある。

なかには、英語環境がプリミティブな会社によくあることだが、英語担当者を辞書代わりに使おうとする輩もいる。「それくらい辞書引いたら!」と言うと「だって辞書ないもん」と言う。最近はインターネットにいろんなオンライン辞書がいっぱいあるでしょーが、と言っても「じゃあそこのURL教えてください」なんてことになり、余計時間をとられるのでさっさと意味を教えてあげたほうが早い場合もある。こういうことをやっていると国際化の波に乗り遅れる(遅れている)のは確かである。もっとも、全部が全部そういう人間ばかりではなく、こちらが翻訳した文章を自分なりに辞書を引き引き読み、読んだうえでここはこういうニュアンスですか?と聞いてくるような人もいる。そういう人が「ああ、英語だとこういう言い回しになるのか、なるほど、よく表現されてますね」などと言ってくれるとほんとに嬉しい。こういった人は自分もモノを作る人間だからという発想がきちんと前提としてあるので、相手の作ったモノに対して尊重もできるし、理解しようとする努力ができるということなのだろう。



話は戻るが、グラフィックデザイナーなどに「日本人相手のポスターになぜ英語が要るんですか?」と聞いてみると、答えはズバリ、「カッコイイから」。カッコイイからって、そんな理由だけで無理に必要性のないヘンな英語を入れるのか?と詰め寄りたくなるのが、英語のわかる人たちの心情である。やっぱり「西洋崇拝」じゃないか、だから日本人はダメだって言われるんだ!というような発想も当然出てくるだろうし、日本人のヘンな英語を笑っている英語圏の人たちも同様の意見かもしれない。だが、私見を述べれば、それではまだ、物事の一面しか見ていないということになる。筆者の属している制作業界でそんなことを言う人がいれば、「あなたはまだ素人さんですね」と言ってしまうかもしれない。

だいたいにおいてデザイナーとか言う人たちは良くも悪くも「口八丁・手八丁」のようなタイプは少ない。感性が勝負の人たちなので、くどくど説明などはしない場合が多い。こちらの質問に対する答えもシンプルな場合が多く、「カッコイイから」としか言わない。もちろん、どういう意味でカッコイイのか、などと深く聞いていけば説明はしてくれる。では、この「カッコイイ」ということであるが、どういうことかというと、ヘンな西洋崇拝や「英語知ってるぞ」といったカッコ付けではなく、文字通り「格好が良い」のである。「格好が良い」ということは、「視覚的に美しい」ということだ。視覚的に美しいことは、デザインとしての「絶対条件」であり、これを外すとデザインとして質の悪いものになるのは当然である。

で、どういうことなのか、わかりやすい例を挙げると、自分の近くにカレンダーなどを飾っている場合は、そのカレンダーをじっくり見てみよう。4月なら「桜」、5月なら「若葉」などと写真が載せられており、当然のことながら日にちの数字が入っていて、○月といった文字もある。そのなかでアルファベットの文字を探してみると、純和風スタイルで作られたものは別にして、たいてい1つや2つあるはずである。次にそのアルファベットの文字がすべて漢字(日本語)だったとしたらどうだろう。あまりスマートなものではなくなり、モノによっては「ダサイ」といった雰囲気になるはずだ。

言うまでもなく、日本語は漢字、ひらがな、カタカナ交じりの文章である。紙面に置いた場合、それだけでゴチャゴチャ感がするものだ。美しい写真などを大きく扱いたい場合、デザイナーがやたら日本語の文字を小さくしたがるのもこういう理由からだろう。どうしても文字には見た目の印象というものがある。中文のように漢字ばかりのものは重たすぎるような印象を与え、ハングル文字などはいろんな形があり、動きを感じさせるがスタティックなスマートさはあまりない。逆に日本語の筆文字などを大きくあしらい、そこに小さくアルファベットを絡ませたりするとおもしろい効果が現れたりする。デザイナーというのはそういったことを考えながら(感じながら)、モノづくりをしているわけで、そのなかで「あ、ここにアルファベットが欲しい」というときがあるのである。しかし、アルファベットなら何でもいいというわけにはいかないので、できれば何かしら関連のある英語表現を入れておきたいというわけだ。

そういった気持ちはよくわかるので、筆者としてもできるだけ協力しようと思うのだが、むずかしいのは、英語表現の「落としどころ」である。「短い表現で、日本人にわかりやすく、英語としてもおかしくないもの」となると、まず、「日本人にとってわかりやすい」というのは一体どのレベルを言うのだろう、という点が最も悩ましい。自分は英語を理解しているので、いわゆる英語が苦手な普通の日本人にとって、どれくらいであれば理解できる許容範囲なのかということである。幼稚園レベルなのか小学校レベルなのか、しかし、そんな低いレベルだと表現しようという内容自体が概念的に無理、といったことになり悩む。文法的に間違っていないが「和製英語」というレベルで妥協するという方法もあるが、「ヘンな英語を通した」というのも英語を使って仕事をしている自分としては譲れない。「こんな理由で英語としてはおかしいけど、こんな条件での使用ならば問題ないでしょう」と説明したうえでOKを出しても、客先には「英語担当の人間がこれでいいと言ってました」ということになる。くどくどした説明よりも「良いのか悪いのか」のイチゼロ回答しか求めていない(頭に入っていない)のである。

こちらから逆に「例えばどういうモノが良いと思いますか?」と聞くことがある。聞いてくる人が「良い」と思うところに照準を合わせるしかないからだ。するといろんな答えが返ってくる。自分の好きな英語の歌のなかのフレーズだとか、最近見た映画の英語タイトルだとか、そういう感じのものにしてくれ、などと言う。と言われても、意味も状況も全然違うフレーズじゃないですか、ということになるのだが、「いやそれはわかる。だから、なんかそういうノリのもので」とか言われる。さらに困るのが、相手の持っている発想や連想が非常に日本的なものであったり独自のものであったりする場合、こちらもその発想パターンとやらに合わせなければならないこともある。しかし、あまりこういうことをやっていると、せっかく培ってきた「英語らしい発想・連想」というものが狂ってしまうことである。そうなると本場の英語への翻訳などのときに大きな障害となってくるからだ。

それにしても、何か好み(?)の傾向のようなものがあるはずだということで、いろいろ考えてみると、業界や担当者などによっても違うが、以下のような傾向がありそうである。

●ハードな業界向けの場合、その業界でトレンドになっている英語の言葉などが受ける場合がある。IT関係や製造業などアメリカなどが主導権を握っている業界は特にその傾向が大きい。この場合、一般日本人にとってむずかしい単語であっても関係ない。
●やわらかい業界向けなら、get, catch, take などのカンタンな動詞に前置詞をつけたものなども好みが高い。テレビなどでも「カンタンな言い回しでできる英会話コーナー」などというものもあり、そういう動詞+前置詞のイディオムは躍動感もありカッコイイと思われるようだ。
●その人が好きな英語の歌詞、映画の英語タイトルなども親しみがあるので「カッコイイし、理解できる」と思われる。常日頃から歌詞や映画タイトルの表現をストックしておくといいかもしれない。

とにかく、ヘンなこだわりというわけではないが、やはり、陰で笑われるのもおもしろくないし、デザインにおけるアルファベットの効果を理解したうえで、英語としてもおかしくないものを提案していきたいと思っている。また、日本語としてカンタンで、という部分の「カンタン」のレベルも少しずつ上げることができれば理想である。